最後の私小説作家の没後10年展「この展示では車谷が暴かれている」
小説「赤目四十八瀧心中未遂」などの作品で知られる兵庫県姫路市出身の作家、車谷長吉(くるまたにちょうきつ)さん(1945~2015)の没後10年に合わせた回顧展が姫路文学館(姫路市山野井町)で開かれている。「最後の私小説作家」と呼ばれた直木賞作家の生涯をたどる企画だ。
車谷さんは当時の飾磨市生まれ。慶応大学を卒業後、広告会社に勤めたが数年で退社し、作家生活に入った。
長く日の目をみなかったが、身内の自死などを描いた1992年の「鹽壺(しおつぼ)の匙(さじ)」が芸術選奨文部大臣新人賞と三島由紀夫賞をW受賞し、一躍文壇の注目を浴びた。
98年の「赤目四十八瀧心中未遂」で第119回直木賞を受賞。作品は映画化もされ、話題を呼んだ。
2009年4月から12年3月まで朝日新聞「be」の人生相談欄「悩みのるつぼ」の回答者も務めた。15年、誤嚥(ごえん)性の窒息で69歳で急逝した。
今回の展示会の開催は、東京の自宅にあった原稿や創作ノート、書籍といった遺品約2200点が、妻で詩人の高橋順子さんから姫路文学館に一括寄贈されたことが大きなきっかけとなった。
スランプ、断筆について書いた日記や手紙、出版社からの前借りに対する礼状、「鹽壺の匙」を仕上げるためにしたためた遺書など、苦しみながら続けた作家生活を物語る遺品が展示されているほか、一編の詩をきっかけにした高橋さんとの出会いや2人のつながりを紹介するコーナーもある。
高橋さんは開幕前日の4月18日に会場を訪れ、観覧した。取材に対して「車谷はよく『暴き屋』と言われたが、この展示では車谷が暴かれている。ふるさとの姫路に遺品があることで、車谷の魂も安らいでくれるのでは」と語った。
会期は6月22日まで(休館日は毎週月曜)。一般800円など。高橋順子さんと作家・万城目学さんの寄稿文などを収録した図録を1千円で販売。5月17日と6月7日に学芸員による展示解説がある。
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兵庫:朝日新聞デジタル 2025-05-09 [
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