元醬油蔵からはぐくむアート 岡山県真庭市で愛され続けた20年
廃業した醬油(しょうゆ)蔵が文化の薫り漂うアートスペースに生まれ変わって20年。地域交流の場として、住民や県内外のアーティストらに愛されている。
岡山県真庭市・勝山町並み保存地区を見下ろす高台にある、勝山文化往来館「ひしお」。地元の醬油蔵を活用した文化発信拠点で、真庭市誕生の2005年3月末の後、6月5日に開館した。
建物は黒い板壁が目を引く。醬油蔵の瓦や柱、はりを再利用し、ガラス張りの渡り廊下も設けて改修した。
大きな役割を果たしたのは、館長の辻智子さんの夫、故・均一郎さんだった。
「勝山の文化振興につなげたい」
清友家が1800年代に創業した醸造場は、1972年に生産をやめたものの風情たっぷり。再生への思いが募り、「文化的な目的のために役立てて欲しい」との条件で清友家から旧勝山町への寄贈が決まった。
「ひしお」の名称には、文化を醸造する「はぐくむ」の意味も込められている。蔵をイメージした北側のホールはアーティストの発表の場。土壁、ゆとりのある天井高と2階の回廊が印象的。中庭はイベントで使い、南側にギャラリーとカフェがある。延べ床面積約660平方メートル。
運営は、住民らでつくるNPO法人「勝山・町並み委員会」が市の指定管理者として担っている。これまで「ひしお」を軸に、企画展、交流イベント、滞在のアーティストに作品を作ってもらう「アーティスト・イン・レジデンス」、食や映像、演劇の企画などを次々と打ち出してきた。
1日の記念式典では、辻館長が20年の歩みを説明。記念コンサートには倉敷アカデミーアンサンブルが出演し、盛況となった。
一角には、醬油醸造当時から桜の巨木が残る。春にお花見を楽しむのが、寄贈した清友家の清友敬子さんだ。幼い時に蔵に入って慣れ親しんだという。ひしおの場所は高台にあり、昔は下から数え、3の段と呼ばれ、茶室も併設していたという。「寄付して良かった。立派にしていただいた建築家に感謝しています」とほほえんだ。
勝山・町並み委員会では、運営に助力をと、ひしおフレンズ(1口3千円)を募集。「六月の夜の空―伊藤俊展」(7~29日、入場料300円、中学生以下無料)を開くほか、地元に戦時疎開した文豪、谷崎潤一郎の顕彰も進める。行藤公典理事長は「文化と芸術の発信拠点として引き続き貢献したい」と話す。
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岡山:朝日新聞デジタル 2025-06-05 [
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