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100歳まで描いた「オリーブの画家」佐竹徳 瀬戸内で特別展

 岡山県瀬戸内市の牛窓オリーブ園を、100歳で亡くなるまで40年近く描き続け「オリーブの画家」と呼ばれた佐竹徳(1897~1998)の作品を集めた特別展「全部、佐竹徳」が同市牛窓支所内の市立美術館で開かれている。開館15周年を記念し、館設立のきっかけをつくった画家の16歳から100歳までの作品約50点を集め、語録やエピソードなども交えて人柄をしのぶ展示となっている。29日まで。
 佐竹徳は大阪市出身で、本名佐竹徳次郎。早くから画才を発揮し、今回の展示で最も古い絵は16歳のころ、関西美術院に入門するため画家の鹿子木孟郎宅に持参した水彩画「天王寺風景」(1912年)だ。額装されるまで四つ折りにして封筒に入れられていたとされ、今も折り目が残るが、高い技術と空間把握能力を感じさせる。20年には帝展で2点が同時入選、翌年には特選を受賞した。
 ただ、同時期にフランスの印象派画家セザンヌの画集に衝撃を受け、しばらく絵が描けなくなってしまった。23年には関東大震災で被災。救済復興運動を始めたキリスト教社会運動家の賀川豊彦に出会い、師事するようになった。
 40年からは青森県の十和田湖と奥入瀬渓流に何度も通うようになり「渓流の画家」として高い評価を受けるようになった。戦災で命拾いをしたことをきっかけに、戦後に画家としての名を「佐竹徳」とした。
 運命が大きく動いたのは59年。高松市で病気療養中だった賀川を見舞った帰路、牛窓オリーブ園に立ち寄った。赤い土とオリーブの緑が、セザンヌの描いた地中海の風景と重なり、強く心をひかれた。
 「永年求めたものにここでぶつかったのです」との言葉を残しており、63年ごろからは1年の大半をオリーブ園で過ごすようになった。園主の服部家が提供した海岸の宿舎を毎朝夜明けとともに出て、丘の上の「赤屋根」と呼ばれたアトリエまで跳ぶように登り、オリーブを描き続けた。
 光線が変わって思う風景が見られなくなれば、こまめに園内の植物の世話をし、小鳥にエサをやってアトリエの隣で飼われていた猿と遊ぶ。高名な画家と知らない地元の子どもたちからは「猿飼いのおじさん」と呼ばれた。観光客にはしょっちゅう園丁と間違われたが、アトリエに招き入れては好物のコーヒーを振る舞ったという。
 描いた絵はめったに売らず、手を加え続けた。オリーブの枝ぶりが変われば描きかえ、木が切られると絵から消したこともある。97年に旧牛窓町に寄贈した自作68点にはほとんどサインが入っていない。翌年、100歳で生涯を閉じた。合併で絵を引き継いだ瀬戸内市は旧町議会の議場を改装し、2010年に市立美術館として開館した。
 今回は佐竹徳と親交の深かった日動美術財団のコレクションも借り、16歳から亡くなる直前まで描いていた絶筆に至る画風の変遷を一望できる。3階ギャラリーは無料開放してアトリエ「赤屋根」を模した空間を設けた。絵と実際に制作した場所の写真を合わせた展示や、生前の写真なども見ることができる。
 観覧料は一般700円、中学生以下無料。午前9時半から午後5時(入館は午後4時半まで)。月曜休館。

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岡山:朝日新聞デジタル 2025-06-10 [Edit / 編集]

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