小社会 梅仕事
高知市周辺の田の緑が濃くなってきた。土の表面が軽くひび割れるくらいまで水を抜く5月の「中干し」の期間に、しっかり根を張った稲。入梅後の雨でたくましさを増し、間もなく穂を出す。
筆者の実家では父が中干しを済ませた。野菜作りの合間に青梅を大葉と塩で漬け、「土用干し」に向けた梅仕事にいそしむ。母が隣で「梅干しさえあったら、おかずはいらん」。街路市にも農家さんが雨中で収穫した大小の青梅が並び、黄を帯びたものも増えてきた。
それにしても青空が待ち遠しい。作家の檀一雄は〈梅雨の時期ほど鬱陶(うっとう)しいものはない〉。対抗策としてミョウガ、ハジカミ、キュウリなど旬の野菜を梅酢につけて食した。〈一瞬の匂いや歯ざわりが、梅雨の鬱陶しさを、なぎはらってくれる〉
半世紀前の著述だが、既に梅を漬ける家庭が減っていたようで〈塩に漬けるだけだ。勿体(もったい)ぶったことは何もない〉と梅仕事を勧めている。
9歳で檀の母が家を出て、父と3人の妹のために家事を担ったのが料理通の原点。娘の俳優、檀ふみさんは「父は家族そろって食卓を囲み、交わす会話を大切にしていた」。数十人の客を招いた時も檀自らもてなしたという。
檀は〈この地上で私は買い出しほど好きな仕事はない〉とも。街路市の店先では店主や客が、梅干しの塩加減や梅酒の角砂糖のあんばいをあけすけに教えてくれたりもする。雨で沈みがちな心が明るくなる。
高知新聞 2025-06-14 [
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