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人口減 どんな成熟社会を目指すのか 広井良典さんが滋賀で講座

 人口が減る日本は、どんな社会を描くのか――。公共政策に詳しい広井良典・京都大名誉教授が6日、滋賀県彦根市の県立大学で公開講義をした。地域に根ざす成熟社会を実現する方策を語った。
 日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減少。滋賀も今年2月に140万人を割った。
 1975年発売のヒット曲「木綿のハンカチーフ」は、都会へ旅立つと恋人に告げる歌詞で始まる。
 広井さんはこう説明する。「人口急増の当時、全てが東京へ向かった。今は逆の局面に入った」
 若者のローカル(地元)志向で、都市集中から「地域への着陸」の時代になった。国の調査で地元大学進学率は22年度は44%。過去50年で最高だ。
 昨年、日本人の出生数が70万人を初めて割った。女性1人が生涯に産む見込みの子の数「合計特殊出生率」は1・15。滋賀は1・32で「改善の余地がある」と広井さん。若者の支援、女性の就業環境整備が課題だ。
 若者は大学卒業後の就職で県外へ転出し、子育て時に戻ってくるとも言えると、滋賀の現状を分析。都会のベッドタウンにとどまらす、県内での雇用も大事だとした。
 また、2050年に向けた政策提言を紹介した。
 人工知能(AI)で2万通りのシミュレーションをし、持続可能な観点で「都市集中型」より「地方分散型」シナリオが望ましいとした。
 分析では、都市集中型では出生率が下がり、格差が広がる。健康寿命や幸福感が下がる一方、政府支出が都市に集中するので、政府の財政は持ち直す。
 地方分散型は逆の傾向を示す。人口分散で出生率が持ち直し、健康寿命や幸福感も上がる。ただし、政府財政や環境(二酸化炭素排出量など)が悪くなる可能性もある。
 そのために、地域公共交通の充実、地域を支える文化や倫理の伝承などが有効だという。
 さらに女性活躍、仕事と家庭の両立など多様な働き方、生き方も包括した分散型社会(持続可能な福祉社会)を掲げた。
 その方向性は二つだ。
 一つは福祉政策と結ぶ都市政策。車・道路中心の日米の街に比べ、欧州は中心部から車を排して歩行者が座れる所がある。高齢化を好機ととらえ、日本も歩行者中心の街にすべきだという。
 欧州の商店街は子どもから高齢者までくつろげるまちになっていると、広井さんは感銘を受けた。「米国流の郊外商業モールが全てではない」と話した。
 日本各地の商店街再生の取り組みを示し、若い世代の開業支援などが課題だとした。
 もう一つは「ローカリゼーション」。地方の人・モノ・カネの循環から、ナショナル、グローバルと国内外へつなぐ経済システムが重要という。
 そのカギは神社や寺の「鎮守の森」だと説いた。
 鎮守の森はコミュニティーの拠点。自然エネルギーや地域再生など現代の課題と結びつけて、自然がもたらす意義を再発見できると説明する。小水力発電でエネルギーの地産地消のまちをつくる岐阜や埼玉の例を示した。
 広井さんは「日本は人口減少・高齢社会のフロントランナーだ。環境・福祉・経済が調和した持続可能な福祉社会を実現し、発信すべきだ」と結んだ。
 学生らは地域の古民家活用、子どもの居場所づくり、川の再生の活動を発表した。県立大の上田洋平特任講師(地域学)が、全体の進行役を務めた。

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滋賀:朝日新聞デジタル 2025-06-14 [Edit / 編集]

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