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2年前は期待の1年生エース…自己中心的な自分を変えてくれたチーム

「2年間の成長」①能登川 中村啓人投手(第107回全国高校野球選手権滋賀大会の開幕前連載)
 2年前の夏。1年生だった能登川の中村啓人(ひろと)投手は、背番号1をつけて滋賀大会に臨んだ。
 チームは3年生が少なく、1、2年生が主体。中村投手は将来期待のエースだった。
 能登川は12年ぶりに滋賀大会の初戦を突破し、16強入りを果たした。中村投手は1~3回戦全てに登板し、躍進の立役者になった。
 このときの最速は120キロ台。2年生で135キロ、3年生で140キロが出せたら――。滋賀大会で自信をつけた中村投手は、そう胸を膨らませていた。
 だが、滋賀大会のあとに右ひじを故障。秋の県大会は初戦で敗退した。調子が戻らなくなった。
 昨春には力のある後輩たちが入部してきた。焦りが募った。無理をして、今度は右肩を痛めた。
 昨夏の滋賀大会。痛みを押して登板したが思うような投球ができず、とうとう、くさった。練習がどうでもよくなり、チームメートの言うことも聞かなくなった。
 1年生のときを振り返ると、エースだった自分は先輩たちからチヤホヤされていた。それがよくない方向に働いたかもしれない。
 思いどおりの投球ができないと、野球はチームプレーが大事なのに、態度に出していた。試合をこわし、チームメートに当たることもあった。
 そんな自己中心的な自分に気づかせてくれたのは、久保尚人監督(29)やチームメートだった。
 「考え方を変えないと戻るのは無理」と久保監督に言われた。昨秋は練習から外され、草むしりや学校のトイレ掃除をする日々が続いた。体がなまらないように父親とキャッチボールをした。昨秋の県大会は私服でスタンドから見守った。
 「下級生の見本にならなアカン」「戻ってこいよ」――。同級生の武重絢大(けんと)主将や島田大聖選手らは気にかけ、自分が変わるのを待っていてくれた。
 右肩の痛みでまともに投げられないまま冬を越し、今春には1年生が入ってきた。「面倒をみろ」と久保監督に言われた。最高学年という立場があった。ここにきてようやく、自分を変えることができた。
 「嫌なときに自分の中にこもるのではなく、周りを見ることができるようになった。人として成長できた」。中村投手はそう話し、周りもそう見ている。
 中村投手が1年生のときから見てきたマネジャーの外村泰葉さん(3年)は、「啓人が変われたのは監督や周りの3年生のおかげ。こっちまで成長させてもらった」とほほえむ。
 「メンバーが違ったら、戻ってこられなかったかも……」。中村投手は、久保監督やチームメートの存在に感謝する。
 気迫あふれる投球が持ち味だが、エースだった1年生のときに思い描いていた投手にはなれなかった。球速も4、5キロしか伸びていない。
 だが、夏の大会は3年生の底力が勝敗を分けることが多々ある。久保監督も「中村はいいものを持っている。チームの救世主になってほしい」と期待を寄せる。
 2年前の夏は背番号1をつけたが、この夏は背番号にこだわりはない。
 「ピンチの場面でも任せてもらえるような投球がしたい」。マウンドに立つことができたら、自分を変えてくれたチームのために力投する心づもりだ。
     ◇
 第107回全国高校野球選手権滋賀大会が7月6日に開幕する。記者は滋賀の高校野球を担当して3年目。2年前の夏に1年生だった選手の「成長」を伝える。

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滋賀:朝日新聞デジタル 2025-06-26 [Edit / 編集]

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