詩人・池田克己の足跡たどる資料館 奈良県吉野町に30日開館 自筆原稿や解説パネル展示
ピアニスト柴田さんが演奏会
旧龍門村(奈良県吉野町)出身の詩人、池田克己(1912~53年)の足跡をたどり、文芸の息吹を継ぐ私設資料館「詩人池田克己龍門記念館」が30日午後1時、吉野町平尾の生家跡向かいに開館する。同日はジャズピアニスト柴田コウメイさんのコンサートもある。
柴田さんの妻でデザイナーのゆきさん(53)がNPO「吉野龍門が生んだ詩人池田克己顕彰会」を立ち上げ、資料館を運営する。柴田さん夫妻は2020年4月に同町に移住し、音楽活動などを展開。太宰治など文学研究が趣味のゆきさんは23年に池田の存在を知り、のめり込んだ。国会図書館のデジタルアーカイブなどを活用して作品を読み漁り、池田が編集や装丁を担った書籍などを収集した。
資料館は柴田さんの音楽事務所の一画に開設する。生家跡の向かいという立地は偶然だった。池田の装丁本約20点や親族の手元に残されていた自筆原稿、池田が仲間8人で創始した詩雑誌「日本未来派」関連の資料などが並ぶ。研究者の木田隆文・奈良大学教授から譲り受けた解説パネルも展示する。
池田は吉野工業高校建築科を卒業後、上京して写真技術を学んだ。1934(昭和9)年に帰郷し、写真館を営みながら詩人、編集者として活動。41~45年まで上海に渡り、国策新聞社で働きながら現地の邦人文学者らと上海文学研究会を結成。戦後は現在も刊行を続ける「日本未来派」の編集を創刊号(52年)から死の前年の53号まで手がけた。
48年発表の長詩「法隆寺土塀」は名高い代表作だ。「胸にズキューンときた」とゆきさん。「人間の本質から目をそらさない強さと優しさ、誰かのために何かをしたいという正義がある。思想は自由で、すべてを潔く見せてくれる」と池田の魅力を語る。
同町在住の池田皐月さん(73)が副理事長を務めるなど親族も協力的だ。皐月さんは「ゆきさん(=理事長)の情熱に感謝している」と詩人池田の再評価を喜ぶ。
NPOは今後、紹介冊子の発行や文学賞の創設、文芸活動の支援などを計画。7月27日には東京・渋谷区で日本未来派詩人出演の自作朗読とピアノコンサートも行う。NPO入会は賛助会員(年会費5千円)やボランティア会員(同千円)など。
資料館は入館無料。開館時間は午後1~5時で木・金曜と第4土・日曜は休み。問い合わせはNPOのホームページから。
奈良新聞 2025-06-29 [
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