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公式戦登板なしの最速143キロ右腕、父「10年間で一番」

 7月6日に開幕する第107回全国高校野球選手権滋賀大会。ベンチ入りできる選手は20人だが、それがかなわない選手にも、野球に打ち込んできた物語がある。
 6月25日夕。滋賀県彦根市のHPLベースボールパークで、彦根東と近江の3年生が相対した。滋賀大会の前に催される、両校による恒例の「メモリアルゲーム」だ。
 ベンチ入りした3年生は彦根東が21人、近江が29人。滋賀大会でベンチ入りできず、これがラストゲームになる3年生もいる。スタンドでは保護者や後輩らが見守った。
 試合は近江が五回表に4得点して5―0としたが、その裏に彦根東が4点をかえして熱戦に。六回には、両校の部員らがゆずの「栄光の架橋」を合唱。球場全体がしんみりとした雰囲気に包まれた。
近江の瀬賀投手、八回に登板し142キロ 照明が照らすグラウンド。1点差のまま迎えた八回裏、近江の瀬賀巧海(たくみ)投手(3年)がマウンドに上がった。
 背番号18。高校に入ってから公式戦で登板したことはない。ベンチ入りしたのも、今春の県大会で1回だけ、という投手だ。
 記者は6月中旬、彦根東と近江の部員が手伝った審判員の講習会で、瀬賀投手を初めて見た。力のこもった投球に見入った。
 左足を鋭く上げて勢いをつける投球フォーム。八回に投じたのは11球。持てる力を出し切ろうとするような、気迫あふれる投球だった。
 球速が表示されるたび、球場がどよめいた。最速は3球目の142キロ。三者凡退に抑えてマウンドを降りると、仲間たちがねぎらった。試合は近江が5―4で勝った。
小学1年生のときに母を亡くす 瀬賀投手は、小学1年生のときに母・美歌さんをがんで亡くした。美歌さんが「野球をやってほしい」と言っていたこともあり、小学2年生で野球を始めた。
 大津市出身。甲子園をめざして近江に進んだ。憧れていたのは、いまはプロ野球・西武で活躍する山田陽翔投手だ。
 高校では直球を磨いた。入学当時の最速は125キロ。ウェートトレーニングなどに力を入れ、143キロまで伸ばした。
 だが、コントロールがよくならなかった。近江は選手同士の競争も激しく、ついに公式戦で活躍することはできなかった。
 投じた11球はすべて直球だった。磨き続けた自慢の球種で勝負したかった。下半身を意識して、リリースの瞬間だけ力を入れることを心がけた。
父「お母さんにいい報告できる」 「抜群だった」と小森博之監督(41)。スタンドで見守った父・剛さん(52)も「10年間で一番いいピッチングだった。お母さんにいい報告ができる」とほほえんだ。
 瀬賀投手は「145キロが投げたかった」と悔しさをのぞかせた一方、「自分なりにがんばったけど、うまくいかなかった結果にも、納得している」と高校生活を振り返った。
 今後は、滋賀大会に臨むチームの練習を、磨いた直球で支える。将来の夢は消防士。本気でやる野球は高校で終わりにするつもりだ。

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滋賀:朝日新聞デジタル 2025-07-05 [Edit / 編集]

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