浮かぶ戦時の暮らし 瀬田国民学校の学級日誌展示 大津市歴史博物館
太平洋戦争中に、大津市の瀬田国民学校（現在の大津市立瀬田小学校）の5年生の少女たちが描いた学級日誌（絵日記）が、大津市歴史博物館=大津市御陵町=で展示されている。劣化した紙の修理などの作業を終え、日付順に並んだ全188日分の日誌が、戦時中の暮らしと少女たちの心を鮮やかに伝えている。31日まで。
学級日誌は、五年智（ち）組の担任の西川綾子さん（故人）が、受け持ちの児童のうちの7人に声をかけて始まった。
当時のクラスは男女別で、智組は女子のみ。西川さんは後年、戦時下で本や雑誌が手に入らず、ラジオや新聞が戦争一色になっていくなかで、子どもたちの表現力を伸ばしたいと考えたと語った。「文化がないなら、自分たちで文化をつくろう」と思った、と。
日誌は、1944年4月5日から45年3月19日まで続いた。少女たちは放課後に日々の出来事をまとめた。色鮮やかな絵と、のびやかな文章が特徴だ。
日誌の始まりは「入學（がく）式 始業式」。「決戦下の少國民（しょうこくみん）」などと戦争を意識しながらも、画面は明るい。
4月12日に描いたのは、教室に飾ったチューリップの花だ。
《チューリップの花がきれいに咲いてゐた いかにもニッコリ〳〵わらって咲いているやうであった》
授業や学校農園での作業、遠足、運動会や学芸会といった学校行事の様子が描かれている。
一方で、空襲を避けるために都会から疎開してきた子や、戦場に向かう兵士の見送りの様子なども少女たちは記録している。
44年12月18日には、空襲に備え、防空頭巾をかぶって避難する児童らの姿を描いた。実際の防空頭巾はもっと地味な色だったが、「せっかくなら、きれいに仕上げよう」と、鮮やかな色を選んだという。
戦局の悪化とともに、日誌には空襲についての記述が増えていく。「敵米英をたたきつぶしてしまえ」「今に見ろ。米英げき滅」などの激しい言葉も目立つようになっていく。
《にくらしきB29 今に見てゐろこの戦（いくさ）》
45年3月19日には、こんな言葉とともに、黒々と塗りつぶした米軍の爆撃機B29が、大きく描かれている。
「1年間ごくろうさまでした。これで終わりにしましょうね」
西川さんはこの日、少女たちにそう告げたという。
日誌は戦後、西川さんが自宅で保管していた。西川さんが亡くなった後の2011年に大津市に寄贈され、16年に市の文化財に指定された。
日誌の筆者の一人、奥村早智子さん（91）は「日誌を見ると、それぞれの場面や思い出が鮮やかによみがえってくる。西川先生は『よく見てかきなさい』と言っていた。その言葉を今、改めてかみしめています」と振り返る。
内田喜代子さん（92）は「日誌を見ながら、戦争の時代のことをじっくり考えてほしい」と話す。
25日は休館。観覧料は一般500円、高校・大学生300円、小中学生200円。問い合わせは大津市歴史博物館（077・521・2100）。
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瀬田国民学校の学級日誌は、2015年に1冊の本として刊行された。「1944―1945年 少女たちの学級日誌 瀬田国民学校五年智組」（吉村文成解説、偕成社）。日誌の全188日分をオールカラーで収録している。
同僚と一緒に本を手がけた編集者の千葉美香さん（66）は「日誌を全て読むことで、戦争中の生活や子どもの心の変化がわかる。今の子どもたちに読んでほしい」と話す。
40年以上にわたって児童書や絵本の編集に携わり、「ノンタン」シリーズや「かこさとし童話集」などを世に送り出してきた。24年に偕成社を退職し、現在はフリーランスの編集者として活動している。
千葉さんが学級日誌と出会ったのは14年。日誌を題材にしたNHKのドキュメンタリー番組がきっかけだった。「戦時下なのに、絵も文章も、素直な、生きた言葉でかかれている」と驚いた。
04年から学級日誌の複写版の展示などを続けてきた市民グループ「南大萱資料室」（大津市）に連絡を取り、日誌をかいた元少女4人に会った。日誌を1枚ずつ一緒に見ながら、当時の思いを聞き取った。
4人が代わる代わる語った思い出は「ふきだし」の形で本に収めた。千葉さんは「日誌を見ながら生き生きと語る筆者の方々の姿に、この日誌が現代までつながっている、と感じた」と言う。
戦後80年となり、千葉さんはこの本を自費で購入して、大津市内の小中学校に寄贈する準備を進めている。
「子どもたちが戦争の時代について知り、考える機会をつくりたい」
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滋賀：朝日新聞デジタル 2025-08-24 [
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