法廷だから見えてくるもの 事件の背景を知るため毎週足を運ぶ裁判所
高松総局で警察や司法を担当する私は、毎週数回、裁判所に向かう。
2023年9月にこの担当となり、これまでに現役市議による収賄事件や、DV被害を受けた女性の住民票情報を町が加害者側に2度漏らしたことを巡る損害賠償請求訴訟などを取材した。傍聴した裁判は、刑事、民事あわせて70件を超えた。
取材の結果、多くは30行ほどの短い原稿になる。公判を追いながら、記事にはならなかった事件もある。
それでも法廷に足を運ぶのは、ある事件をきっかけに、裁判でなければ知り得ない背景がある、と強く意識するようになったからだ。
24年1月、中年の女が資金洗浄(マネーロンダリング)の疑いで逮捕され、取材した。一見、珍しくない詐欺グループ末端の逮捕のように思えたが、動機が見えないことなどが気になった。捜査幹部と「老後の生活不安からアルバイトのつもりだったのだろうか」と話したことも記憶に残り、動機を知ろうと裁判所へ向かった。
小さな法廷で、傍聴している記者は私だけ。そこで、想像もしていなかった事件の経緯が語られた。
女はアプリを通じてロマンス詐欺の被害に遭い、その相談に乗ってくれた男の頼みに応じてマネーロンダリングに加担していた。しかも、その金は別のロマンス詐欺の被害金だった。
被害者から加害者になることがあるのか、と驚いた。
法廷に立つ女は、約1千万円もの詐欺被害を受けた上に、詐欺に加担したことでも苦しんでいるように見えた。
判決は、執行猶予付きの有罪。背後で操り、まだ罪に問われていない詐欺グループに憤りを覚えた。
私自身の正直な驚きを伝えたいと、法廷でのやりとりと裁判資料から、朝日新聞デジタルの連載「きょうも傍聴席にいます。」の一本として詳報した。
1千万円だまされ、気づけば詐欺の協力者 恋心を利用された女の後悔 同じような被害者や加害者がこれ以上、生まれて欲しくないとも思い、傷心の人につけ込む詐欺の手口に警戒を呼びかける専門家の話も記事にした。
事件は日々起き、私はそれを日々取材する。ただ、事件の発生時や逮捕時の取材で知り得るのは全体像のほんの一部だと思う。
背景に何があったのか、再発防止に何ができるのか。考える材料が裁判の過程にある。
2月には、3人の赤ちゃんの遺体を遺棄し、うち1人を殺害した罪に問われている母親の裁判員裁判が高松地裁で予定されている。背景に何があったのかまだ分からないが、母親は行政の支援を受けていなかったとみられている。
痛ましい事件がこれ以上繰り返されないよう、丁寧に取材し、伝えていきたい。
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香川:朝日新聞デジタル 2025-01-15 [
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