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【障害と逸失利益】差別解消の流れ加速を

 聴覚障害のある女児が交通事故で死亡し、将来得られたはずの収入に当たる「逸失利益」が争われた損害賠償請求訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は全労働者の賃金平均と同等と認めた。平均の85%とした一審判決を変更した。
 障害がある子どもの逸失利益を巡り、健常者と同じ水準とする判断は初とみられる。
 障害を理由に人間の価値に差をつけてよいのか。遺族らからはそんな重い問いが投げかけられていた。判決は、目指すべき差別のない社会を見据えた公正な司法判断と言える。
 最大の争点は逸失利益の算定方法だった。
 逸失利益は、被害者が将来得られたはずの収入などを仮定して算出する。働いていない子どもは、全ての労働者の賃金平均を基準に算定されるのが一般的だ。
 だが、障害がある子の場合は就労能力が低いとみなされることが少なくなかった。近年は障害者の社会進出などを背景に損害賠償を認める司法判断が続くが、健常者より低く算定される傾向にある。
 一審判決も女児の将来のさまざまな就労可能性を認めたものの、「労働能力が制限されうる程度の聴覚障害があったことは否定できない」とし、15%を減じた。社会に残る差別を裁判所は追認したと言わざるを得ない。
 これに対し、控訴審判決は従来の考え方とは一線を画した。子どもの逸失利益を減額するのは「顕著な妨げとなる事由が存在する場合に限られる」との判断基準を提示。その上で女児の障害の特性や能力を正確に把握し、労働能力の制限は認められないと判断した。
 聴覚障害を巡る社会情勢の変化についても言及した。
 2016年に施行された障害者差別解消法は、障害を理由とした差別を禁じる。昨年は改正法が施行され、障害者が生活する上での障壁を取り除く合理的配慮が、従来の国や自治体だけでなく民間事業者にも義務付けられるようになった。
 デジタル技術も進歩している。音声認識アプリやチャットといった会話を支援する手段が次々と登場している。
 こうした状況を踏まえて裁判長は、女児が「合理的配慮がされる就労環境を獲得し、健常者と同じ条件で働くことができたと予測できる」と判断。減額する理由はないと結論付けた。
 差別解消を目指す社会の動きに合わせた当然の判断だ。今後も、この趣旨に沿った司法の流れの定着を期待したい。
 旧優生保護法を憲法違反とした最高裁判決を受け政府は昨年末、障害者への差別や偏見の根絶に向けた行動計画を決めた。希望する生活を送れるよう支援を強化し、相互理解を深める取り組みを進める。
 障害者が暮らしやすい社会は、どんな人にとっても生きやすいはずだ。司法も社会も差別解消への動きを加速させる必要がある。

高知新聞 2025-01-27 [Edit / 編集]

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