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勝者は「奇跡」、敗者は「野球の神様はいない」 因縁の対決、再び

 (第107回全国高校野球選手権青森大会準決勝 青森山田―弘前学院聖愛)
 甲子園出場をかけた決勝で起きた、風の気まぐれと、消えた打球の行方。勝者は「奇跡」と振り返り、敗者は「野球の神様はいないと思った」と落胆にくれた。
 あれから1年。全国高校野球選手権青森大会決勝で対戦した青森山田と弘前学院聖愛が、今年は青森大会準決勝で再び相まみえる。昨年、「ドラマ」の中心にいた両校の選手が3年生となり、それぞれの思いを胸に秘める。
 2024年7月22日、両校は青森県弘前市のはるか夢球場で対戦した。試合は、先攻の聖愛が序盤からリードする展開となった。
 一つ目のドラマは、六回の青森山田の攻撃で起きた。
 二死満塁で1番打者の佐藤洸史郎選手(当時2年)が打席に。4球目の直球を内野に打ち上げた。佐藤洸選手は「うわ、終わったなと思った」。聖愛の原田一範監督も「ショートフライだと思った」。
 だが、打球は外野から本塁に向けて吹く強い風に戻された。聖愛野手陣が目測を誤り、お見合いする形で打球は落ちて、ファウルになった。
 命拾いした佐藤洸選手は「決めるしかない」と開き直った。その2球後、再び直球を振り抜くと、打球は左翼席に飛び込む逆転の満塁本塁打となった。原田監督によると、「その時は風が逆(本塁から外野)になっていた」という。風のいたずらは2度青森山田に味方した。
 ただ、この試合の本当のドラマは最終回に待っていた。
 聖愛は2点を追う九回2死一、三塁。一塁上には丸岡侑太郎選手、三塁上には投手の芹川丈治選手、打席には原田琉生選手(いずれも当時2年)がいた。原田選手が6球目をたたくと、打球は勢いよく左翼線に転がった。芹川選手に加え、投球と同時にスタートを切っていた丸岡選手も生還。
 土壇場で同点に追いついた……、と思っていたら、丸岡選手は審判に声をかけられた。「『よっしゃ』と思っていたら、三塁に戻るように言われて。最初、よく分からなかった」
 審判の説明は、「エンタイトルツーベース」だった。
 通常、エンタイトルツーベースはバウンドした球がフェンスを越えてスタンドに入る形になる。だが、この時は違った。レフトフェンスの左端にある扉の隙間に球が挟まり、エンタイトルツーベースとなった。「マジか、そんなことあるのかって」と丸岡選手は思った。
 結局、丸岡選手は三塁に戻されて2死二、三塁に。次の打者は三振に倒れた。1度は踏んだ本塁が幻となり、聖愛は1点届かなかった。
 運命のいたずら。勝負事に「たられば」は禁物だが、打球が数センチでもずれていたら、違う結果になっていたかもしれない。原田監督は「少なくとも同点にはなった。野球の神様はいないんだって思った」と振り返る。
 あれから1年。満塁本塁打を放った青森山田の佐藤洸選手も、九回に安打を放った弘前学院聖愛の原田選手も、三塁に戻された丸岡選手も、主力選手として今大会を勝ち上がってきた。
 そして、聖愛の先発は芹川選手が濃厚だ。「あの悔しさは忘れたことがない」と話す。試合は7月23日午前10時、舞台は同じ弘前市のはるか夢球場で開始予定だ。

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青森:朝日新聞デジタル 2025-07-22 [Edit / 編集]

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